はやしひろおのホームページ/散文系 チャイ5と私

チャイ5と私


オケやってる人だったらわかるだろうけど、チャイ5っていうのはチャイコフスキーの交響曲第5番のことです。僕は基本的にオケで弾くより室内楽とか小編成の方が好きだから、僕がチャイ5のことについて書くのはちょっとお門違いなんだけれど、まあ好きな曲だから、ということで。

この曲を初めて聴いたのは高校生の頃だったんだろうと思う。演奏はムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル。聴いたのは初めてだったはずなのに以前にどこかで聴いたことがあるような気がした。この曲はうちの親もよく聴いていた曲なので、無意識のうちに耳に入っていたのでしょう。余談だけど知る人ぞ知る杁中のミドリ楽器で買った。そのCDは4、6番とカップリングされていて2枚組。昔よくあった定価は1枚2000円なのに1000円で売ってるやつで、レジへ持っていったら店員さんが間違えて1枚2000円でレジを打たれてしまった。その時3000円しか持っていなかった僕はあわてて「1枚1000円じゃないんですか」と言ってみたらすいませんとか言って打ち直してくれた。

ムラヴィンスキーのはロシア音楽を演奏する際にありがちなひたすらのっぺりと鈍重に、っていうのとは正反対の、早めのテンポできびきびとした、緊張感あふれる演奏。曲は1楽章冒頭の動機によって全曲が統一されていて、まあつまり作りがよくできてる、というか僕好みのわかりやすい作りになってる。めちゃめちゃはまった。毎日こればっかり聴いてた。定期試験中で勉強しなくてはいけないときでも勉強しながら聴いてた。4番と6番も一緒に入ってたけれど、4番は金管がやかましい曲なので聴いてて頭が痛くなってくるので嫌いだった(今でもあまり好きではない)し、「悲愴」はその当時は悲しい経験をしたことがなかったので曲がよくわからなかった。というわけで5番ばかり聴いていた。

大学入ってから知ったけど編成が手頃なのか大学オケはよくこの曲をやるらしい。オケとは無縁の生活をしていた僕には別に関係のないことだったんだけど、常任エキストラを務めている名城オケがこの曲をやるっていうんで僕もやることになった。で、手始めにアバド指揮ベルリン・フィルのCDを買って聴いてみた。よかった。アバド独特の腰の軽さはあるけれども、それが音楽に推進力を与えて生き生きとした演奏になっていたし、各パートのバランスが面白くて、ムラヴィンスキーの演奏では聞こえなかったパートの動きが聞こえてきて意表をつかれたりもした。これを聴くまでアバドには優等生的なイメージがあって敬遠していたんだけど、このときからアバドを非常に高く評価するようになった。実際昔の録音はつまらないんだけど、最近になってとりわけよくなった、という印象がある。で、自分の方は、卒論シーズンで納得いくまで練習できなかったのでかなり芳しくなかった。チャイコフスキーの曲は基本的に臨時記号が多くて楽譜読むのが大変だし、合ってるのか間違ってるのかよくわからない和音なのでめちゃめちゃ手こずった。楽譜見ると作曲した人の性格がわかったりもする。ブラームスとかチャイコフスキーとかはごちゃごちゃと入りくんでて、きっと悩みが多かったんだろうなあ、なんて思ったりもする。その点メンデルスゾーンは曲自体は明快で育ちの良さを感じさせる。

話がそれちゃったけど、最近チェリビダッケの演奏がCD化されて話題を呼んでいる。チェリビダッケは生前は録音を嫌い、そのために幻の指揮者と呼ばれたこともあったらしい。口が悪いのでも有名で、あまりにも言いたい放題だもんだからかのカルロス・クライバーが公の場でたしなめた、ということもあったらしい。で、そのチェリビダッケのチャイ5も聴いた。聴く前から予想していたことではあったけど、とにかく遅い。普通40分ちょっとで終わる曲なのに、57分もかかっている。それでいて緊張が途切れることがない。遅いから細かいところまで聞き取れる。金管を念を押すように強奏させたり、恣意的なディミニュエンドがあったりと解釈は主観的だけど、演奏はいい。前の2つとは全く趣を異にする演奏。こういうのを巨匠的な、とかいうのだろうか。巨匠の定義もよくわからんけど。

で、結局何が言いたかったのかというと、うーん、一体何が言いたかったんだろう。僕にもよくわからない。適当に書きなぐっただけのような気がする。まあ、たまにはこんなのもいいでしょう。とりあえず、もう1度やりたいとは思う。前回は周りに迷惑かけただけだったし、今の方が曲を理解していると思うし。だいたい大学でオケやってる人だときっと何回もこの曲やったっていう人もいるんだろうけど、そういう人の中で完璧に曲を、楽譜じゃなくて曲を自分の物にしている人って何人くらいいるのだろうか。何回もやると、またこの曲か、くらいにしか思わなくなってしまうけど、傑作には無限の可能性があるはずで、その度ごとにまじめに取り組めば以前見えなかった物が見えたりもするんじゃないかと思ったりもする。うーん、素晴らしい考え方だけど、それをそのまま自分に聞かせてやりたいとも思う。('98.1.2)