アルゲリッチは、アルゼンチンが生んだ世界最高のピアニスト、ピアノの女王とまでいわれている。彼女の演奏は自由奔放で、とても情熱的かつ個性的である。
僕がアルゲリッチの演奏を始めて聴いたのは(CDで)、コンドラシンの指揮によるチャイコフスキーのピアノ協奏曲(昔中村紘子がカレーの宣伝で弾いてたやつ)だった。世間での評判も高いこの録音だけど、ライブというだけあって熱気あふれる凄まじい演奏だった。でも、僕が本当に彼女のピアノをいいなあと感じたのは、(かなりマイナーな録音だけど)マイスキーとの共演によるフランクのチェロソナタ、その第二楽章の冒頭部分である。第二楽章はピアノの前奏から始まるのだけれど、この部分をこれ程表情豊かに弾いた演奏が他にあるだろうか。
彼女はこのところソロ活動はほとんどせず、気の合った仲間との室内楽の演奏に力をいれているようだけれど、それは録音を聴いてもよく解る気がする。昔のソロのものは孤独を感じさせ、なにか追いつめられているような気を起こさせるけれども、室内楽のものはいかにもリラックスして音楽を楽しんでいる様子がよく解る。きっととてもプレッシャーがかかるソロ活動を負担に感じていたんだろうし、共演者との対話(演奏の上での)にとても魅力を感じているのだろう。別に実際に会って話を聞いたことがあるわけではないので本当のところは解らないけど(でも会って握手をしたことはあるぞ!)。とにかく、僕はそう感じるし、室内楽好きの僕にはそういう彼女の姿勢はよく解る。
最近アルゲリッチがソロ活動を再開するとか言ううわさが流れている。ファンの一人としてはとてもうれしいことだけど、室内楽での活動は今までどおり活発に行ってほしい。室内楽にばかり力を入れることを残念がる人もいるけど、僕にとっては室内楽での彼女の演奏はとても楽しいし、親しみを感じる。僕のように感じている人もきっといるんじゃないかな。('96.7.31)